新たな産業の創出、社会課題解決に向けた整備
私たちが日常的に使っているスマートフォンやコンピューターをもたらしたデジタル革命(DX1.0)、物とサイバーがつながるデジタル革命(DX2.0)に続き、現在ではクオンタムトランスフォーメーション(QX)の動きが見え始めています。量子技術は、基盤技術を根本から変え、産業界に新たな革新をもたらす巨大なエネルギーを持っています。
例えば、量子コンピューティングは従来のコンピューターよりも遥かに高速な計算能力を持ち、複雑な問題を短時間で解決することができると期待されています。また、量子通信はより安全なデータ伝送を実現し、量子センシングは高精度な測定を可能にする技術として注目されています。
Q-STARは、このQXの時代に向けて、量子技術での新たな産業の創出を目指すために設立されました。量子技術によって、医療分野では新しい治療法の開発、金融分野ではより安全な取引システムの実現、物流分野では最適なルートの検索など、様々な業界で革新が期待されています。
しかしまだ技術として全てが確立してはいない、これらの実現には、活用し得る技術をより早くより適切な形で産業界へ還元していき、業界を超え産業界全体で最先端の情報や技術を結集させることが不可欠です。Q-STARではその一端を担うべく、足がかりとしてまずは議論の交通整理に取り掛かり、議論の際に「どのようなことを整理していくべきか」の指針として活用できるフレームワークを開発しました。
量子技術とビジネスの架け橋となるフレームワーク「QRAMI」
そのフレームワークが、「QRAMI(Quantum Roadmap Architecture and Management Initiative)」です。
QRAMIはインダストリー4.0を実現するための標準化された枠組み「RAMI4.0」を参考に、量子技術特有の要件に適合するようにQ-STARで独自に構成されたリファレンスアーキテクチャです。
量子技術は日々進化しており、その応用範囲は多岐にわたります。 しかし、技術の進展が速すぎるあまり、社会実装に向けた全体像を掴むことが難しく、関係者間での認識齟齬や非効率な開発が懸念されています。 そこで、量子技術の産業化をスムーズに進めるために、全体を俯瞰し、関係者間で共通認識を持つためのツールとしてQRAMIが開発されました。
QRAMIは、縦軸にバリューチェーン、横軸に技術レイヤーを設け、量子技術を用いたビジネスを事業から具体的な技術要素まで7つのレイヤーに階層的に分解し、可視化できるよう設計されています。
そのため、議論の際に「どんなことを整理していくべきか」「今どの部分の議論をしているのか」の共通認識を示すために活用するだけでなく、具体的な企業や研究機関の取り組みをQRAMI上にマッピングすることで、強み・弱みや連携の可能性を明確化することにも活用できます。
QRAMIは、量子技術の実用化に向けた技術開発を促進するだけでなく、産業界全体での共通認識を醸成し、新たなエコシステムを構築するための基盤となることが期待されます。
産業界におけるQRAMIの活用
QRAMIは、例えばビジネス開発において以下のようなシーンで活用されます。
・ビジネスケース/ユースケース検討: QRAMIを参照しながら、アーキテクチャを検討し、レイヤーを分けた上で具体的な検討に進むことで、さまざまな議論が円滑に進められます。
・ロードマップ共有: ステークホルダ間でロードマップを共有する際のツールとしても使われます。
・規格化・標準化: レイヤー間での入出力に関して規格を定め、標準化することで、技術の進展に応じた効率化が期待されます。
具体的な例を挙げれば、ドローン運航制御システムの開発において、どのようなビジネスモデルでサービスを提供するのか(事業層)、どのような機能が必要で、どのような情報伝達が必要か(機能層・情報層)といったように、各レイヤーにおける要素をQRAMIに当てはめながら具体化していきます。これを関係者間で共有することで、認識の齟齬をなくし、円滑な開発を進めることができます。
量子技術の産業化に向けた活動はまだ緒についたばかりであり、ツールとしてのQRAMIの有効な活用法も、使っていく中で、新たに見いだされていくものと考えています。
今後さまざまな場面におけるQRAMIの利用ノウハウを集積し、順次反映していくことで、さらに実用的なフレームワークになることを目指しています。